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名古屋高等裁判所 昭和26年(ネ)257号 判決

控訴人 手島信雄

被控訴人 渡辺元夫

訴訟参加申立人 田中五郎

主文

原判決を取消す

被控訴人の請求を棄却する

参加人の参加申立を却下する

控訴人と控訴人間の本訴訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とし、参加申立に因つて生じた訴訟費用は参加人の負担とする

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた

被控訴人と控訴人間の訴訟の事実上の陳述は、控訴代理人に於て本件手形が田中五郎より被控訴人に裏書譲渡せられた原因関係が消滅し手形上の権利を失つて手形を田中に返還すべきことになり居るもので控訴人は被控訴人に対し本件手形金を支払うべき義務を負わないと述べた外は原判決事実摘示と同一であるから之を引用する

〈立証省略〉

参加申立人代理人は控訴人を相手方として参加申出をなし参加の趣旨として、「控訴人は参加人に対し金十万円及び之に対する本訴状送達の翌日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え」との判決を求め、参加の理由として、控訴人は訴外水谷直孝に対し昭和二十五年四月八日額面金十万円、満期同年六月七日、支払地及び振出地名古屋市、支払場所名古屋市民信用組合赤塚支所なる約束手形一通を振出し、訴外水谷は之を訴外坂井田に対し、同人は参加人に対し夫々裏書譲渡をした。参加人は満期支払場所に右手形を呈示して支払を求めたが拒絶せられ、その後家賃金十万円の支払方法として右手形を被控訴人に裏書譲渡したところ昭和二十五年十二月三十一日参加人は被控訴人に対し家賃金十万円を支払つたので、結局本件手形は再び参加人に譲渡せられた。依つて、参加人は控訴人に対し右手形金十万円と之に対する本訴状送達の翌日以降完済まで年六分の法定利息の支払を求めるため本参加に及んだと陳述し、被控訴人の主張事実並に提出証拠を援用し、

控訴代理人は本件参加の申出は控訴人及び被控訴人を共同の相手方として申出すべきところ控訴人のみを相手方としてなしたものであるから不適法である。尚本件手形が被控訴人から参加人に裏書譲渡せられたとの主張事実は否認する。仮りに、その事実があつたとしても、本件手形上の権利は既に消滅しているので指図債権譲渡の権利を有するに過ぎず、参加人の請求に応じられないと述べた

被控訴代理人は右参加につき、被控訴人としては本訴請求の抛棄も訴の取下もしないと述べた

理由

控訴人と被控訴人との間の本訴請求につき按ずるに、被控訴人主張の請求原因に対する判断並びに控訴人の原審提出に係る手形抗告に対する判断は原判決理由欄に記載してあると同一であるから之を引用する(右抗弁事実に添う当審に於ける控訴人本人尋問の結果は措信しない)。

控訴代理人が当審に於て提出した抗弁につき考察すると、原審証人田中五郎の証言原審並びに当審に於ける被控訴人本人尋問の結果によれば、訴外田中五郎は被控訴人に対し家賃金債務約十五、六万円を負担していたのでその支払確保のために右田中は被控訴人に対し本件手形を前記の通り裏書譲渡したところ其の後昭和二十五年十二月右田中は前記家賃金債務を弁済し本件手形は田中に返還することになつたため本訴が繋属中であつたので田中より別訴を提起すべきであるが便宣本訴を繋続中であるに過ぎないことが認められるから被控訴人は手形上の権利を有しないもので控訴人が右事実を進んで主張し被控訴人が手形上の権利を有せざる旨抗弁するときは該抗弁は許さるべきものである。従つて、控訴人に対し本件手形金の支払を求める被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものであり之を認容した原判決は取消すべきものである

次に参加人の参加申出の許否につき按ずるに本件参加申出は参加申出人が本件訴訟の目的たる手形金債権を被控訴人より譲り受けたことを理由とするものであるから民事訴訟法第七十一条、第七十三条の所謂権利者参加訴訟であることは明かである。而して、本件参加申出人は控訴人のみを相手方としてその申出をしているが、此の権利者参加訴訟は被控訴人に於て参加人の主張請求を認めて争わないときは控訴人のみを相手方としてなすことを許されるものと解すべきであるが、本件に於て被控訴人は参加申出人の主張請求を争わない旨の意思表示をなさないのは固より従来の自己の請求を依然維持している所から見れば、当然之を争つているものと言うの外はないから、権利者参加申出をするには控訴人、被控訴人両名を相手方としてなすべきであつて、控訴人のみを相手方としてなした本件参加申出は不適法と断ずべきである。のみならず、本件参加申出代理人山口源一弁護士は本訴に於ける被控訴人の訴訟代理人であり、被控訴人として控訴人に対し手形金の支払を求め、又参加申出人として控訴人に対し同一手形金の支払を求めるは被控訴人と参加申出人との間に利害相反するものであるから右両当事者の訴訟代理人となるのは弁護士法第二十五条に違反し、山口弁護士のなした右参加申出は無効と言うべきである。従つて、本件参加申出は不適法として却下すべきものである

仍て、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条、第九十四条を適用して、主文の通り判決する

(裁判官 北野孝一 伊藤淳吉 小沢三朗)

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